法律で明記されているハラスメントは?
2020年6月に大企業を対象に施行された「労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」が2022年4月から中小企業にも義務化されることになりました。
これによりハラスメントについて会社でも話す機会が増えましたが、忘れている部分や意外にわかっていなかったこともありましたので、確認していきたいと思います。
まず、ハラスメントと言いますとパワハラに始まり、セクハラ、マタハラ、モラハラ、ジェンハラ…といろいろあります。
現在のハラスメントは50種類を超えるといわれているようですが、法律で規制のあるハラスメントは次の4つとなっています。
法律で規制されているハラスメント4つ
- パワーハラスメント(パワハラ)『労働施策総合推進法』
- セクシャルハラスメント(セクハラ)『男女雇用機会均等法』
- ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)『男女雇用機会均等法』
- マタニティハラスメント(マタハラ)『男女雇用機会均等法』・『育児・介護休業法』
また、ハラスメントと言いましても全てもハラスメントを網羅した法律が1つあるわけではなく、ご覧の通り、それぞれのハラスメントに対応している法律はそれぞれ違っています。
一つずつ確認していきたいと思います。
2022年4月全面施行されるまでの流れ(パワハラ防止法)
では①のパワーハラスメントから見ていきましょう。
上記にあるようにパワハラについて規制されている法律は『労働施策総合推進法』といわれるもので、通称:『パワハラ防止法』と呼ばれています。
正式名称は『労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律』といい、昭和41年にできた法律となっています。
『労働施策総合推進法』は次のような目的で作られた法律です。
労働施策総合推進法の目的
- 労働者が能力を発揮し、職業の安定と経済的社会的地位の向上を図り、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資すること
- 職業能力の開発及び向上を図り、労働者の意欲を高め、かつ、労働者の職業を安定させるための事業主の努力を助長すること
そのため、職業安定所(ハローワーク)のこと、職業訓練のことや求人や就職のことに関する事項などが記されている法律となっています。
そしてそこに2019年5月パワハラ防止の内容も組み込まれ改正成立したわけです。
大企業に関しては2020年6月から中小企業に関しては2022年4月から施行され、義務化されたという流れになっています。
確かにパワハラなどは労働者の働く意欲などには大きくかかわりますから、時代に合わせ、こういった内容を組み込み改正されたというのはよくわかりますね。
職場におけるパワーハラスメントについて2020年に厚生労働者が実施した調査では
ハラスメントに関する実態調査
過去3年にパワハラを受けたこと上がると回答した人は31.4%
『パワハラの相談件数』は1万8千件
『いじめ・嫌がらせ』については約8万件
※2020年6月から2021年3月までに都道府県労働局に相談件数
と言いますから、驚きの数字ですね。
とはいえ、仕事をしている以上、上司に怒られることなどは当然のようにあり得る話でしょうし、何でもかんでもパワハラと言われるのも困ってしまいますので、本人の主観を大切にしつつも客観性をしっかり考慮されているようです。
それでは内容を見ていきましょう。
パワハラ防止法内容をみてみよう!『労働施策総合推進法』第30条の2
まずは『労働施策総合推進法』の第30条の2にパワハラ防止のことが書かれていますので、条文を見てみましょう
労働施策総合推進法 第30条の2
(雇用管理上の措置等)
第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
ご覧の通り、主語が事業主となっており、『パワハラをしてはいけません』という内容ではなく、パワハラをした人に対して『事業主はしっかり対処しなければいけませんよ』という内容になっているのがお分かりいただけると思います。
パワハラの定義
- 優越的な関係を背景とした言動であること
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
- 労働者の就業環境が害されるもの
の3つの要素をすべて満たすものをパワハラと言うと定義しています。
これだけではあいまいな部分も多くありますので、もう少し具体的に記されています。
ます、①の優越的な関係を背景としたというところですが、
職務上の地位が上の人(上司)はもちろんのこと、同僚や部下でも知識をや経験が豊富で仕事上その人の協力得なければ仕事ができないような人も優越的な関係となります。
また、同僚や部下でも集団で一人の人をのけ者にするような相手が抵抗や拒絶できないような状況にするようなときも優越的な関係となるということで例が挙げられています。
②業務上必要かつ相当な範囲とありますが、こちらは『社会通念に照らし』ということになっており、当該行為の回数や行為者の数などもみて、総合的に見ての言動となるようです。
③の就業環境が害されるものについても判断が難しいところだと思いますが、『平均的な労働者の感じ方』すなわち「同様の状態で当該言動を受けた場合に社会一般の労働者が、就業するうえで看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか』を基準にするということが書かれています。
やはり、職場のパワハラと言いましても状況は様々ということで、代表的な言動として6つの類型も例としてでていますので、参考にしてください。
代表的な言動の類型
- 身体的な攻撃・・・暴力、傷害
- 精神的な攻撃・・・脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言
- 人間関係からの切り離し・・・隔離、仲間外し、無視
- 過大な要求・・・業務上明らかに不要なこと、業務不可能なことの強制、仕事の妨害
- 過小な要求・・・業務上の合理性がなく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない
- 個の侵害・・・私的なことに過度に立ち入ること
上記記載された内容につき、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を事業主は取っていかなければならないといったものが、労働施策総合推進法 第30条の2の内容となっております。
また、第2項ではそのような相談を労働者がしたことまたは言ったことに関して、事業主は解雇や不利益な対応を取ってはいけないということも条文書かれています。
事業主が必ず講じなければならない4つの措置
先ほどの中で『パワハラをした人に規制を与えるのは国ではなく事業主で、何もしない事業主に対して規制を与えるのが国という構図』ということを記載しました。
それでは事業主は何をしなければいけないのかを見ていきましょう
パワハラを防止するために事業主が講ずべき措置
- 事業主の方針の明確化及び周知・啓発
- 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるパワーハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
- 併せて講ずべき処置
事業主の方針の明確化及び周知・啓発
・パワハラの内容と行ってはならない旨の方針の明確化と周知・啓発すること
・パワハラを行った者への対処方針と対処内容を就業規則等の文書に規定し、周知・啓発すること
相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・相談窓口の設置と周知
・相談窓口の担当者が内容や状況に応じて規制つに対できるようにすること
職場におけるパワーハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
・事実関係の確認
・事実関係の確認ができたときは被害者に対する配慮のための措置行うこと
・事実関係の確認ができたときは行為者に対する措置を行うこと
・再発防止に向けた措置を講ずること
併せて講ずべき処置
・相談者、行為者等のプライバシーを保護するために措置を講じ、周知すること
・事業主に相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として解雇その他不利益な取り扱いをしないことを定め、周知・啓発すること
その他にも望ましい取り組みとして指針が出されていますが、上記記載したことは必ず講じなければならない措置ということで義務化された内容ということになります。
最後に
最後にもう一度付け加えておきたいことですが、こういった法律の説明や具体例など挙げられるいるものの初めには『客観的に見て』とか『社会通念上』とか『適正な範囲を超えて』などなどの言葉が見られます。
やはり、会社という組織があり、仕事上言わなければならないことや上下関係があるのは当然のことです。
常識外れのパワハラはもちろんいけませんが、『パワハラ、パワハラ』ということで業務が成り立たないようでもいけないということで判定基準が難しいと頃なのでしょうね。(常識というのが人それぞれ違い、常識というものがあってないようなものですから…)
しかし、せっかく縁あって入った会社ですので、しっかりコミュニケーションを取り合い、足の引っ張り合いではなく、それぞれの人が力を発揮できるような環境になるのが理想ですね
次回はセクシャルハラスメントとジェンダーハラスメントについて確認していきたいと思います。