1.はじめに
“人は、そのまま受け入れられたと感じたとき、はじめて変わり始める。”
この言葉は、心理学者 カール・ロジャーズ の有名なメッセージです。
私はこの言葉に出会ったとき、胸の奥がじんわり温かくなるような感覚になりました。
なぜなら、この一文こそが
人が幸せになるための根本原理「承認」 を
もっとも美しく表した言葉だからです。
私が「愛され人の教科書」で伝えたいことも、
まさにこの本質から始まります。
2. 無条件の受容とは何か
ロジャーズは、カウンセリングの根本姿勢として
「無条件の肯定的関心(Unconditional Positive Regard)」 を重視しました。
これは相手の存在そのものを肯定し、
価値を条件づけずに“そのまま”受け入れるという姿勢です。
良い時だけ受け入れるのではなく、
失敗しても、落ち込んでも、不器用でも、
「あなたはあなたのままで大丈夫だよ」
というメッセージを送り続けること。
この“無条件の受容”が、人を内側から変えていきます。
3. 承認はロジャーズだけではない
ロジャーズの“無条件の受容”は承認の本質を最も端的に表した概念ですが、
心理学の世界では、承認を別の角度から説明する理論がいくつもあります。
たとえば、アメリカの心理学者ウィリアム・グラッサーが提唱した
選択理論では、人は誰もが “理想の関係・理想の人物像” を描いた
「上質世界(Quality World)」 という心のアルバムをもち、
そこに「安心できる人」「自分を認めてくれる人」が入ったとき、
信頼と変化が自然に生まれるとされています。
また、アドラー心理学では、
他者の価値を認め、その人の存在を肯定する
「勇気づけ」が中心概念として扱われています。
これはまさに“承認”そのものです。
さらに、ポジティブ心理学の研究では、
承認や共感は 自己肯定感・幸福度・レジリエンス を高める重要要因として
多くの研究結果が示されています。
このように、どの理論から見ても
「人は承認されることで成長し、人とつながり、幸せを感じる」
という事実は共通しています。
承認は心理学全体の“核となるテーマ”なのです。
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愛され人とは?
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4. 承認されると、人の心はどう変わるのか
人が承認されると、脳内では安心・安定をつくるシステムが働き、
心が開きやすくなります。
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承認 → 安心
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安心 → 心が開く
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心が開く → 自己理解が深まる
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自己理解 → 変化・成長につながる
ロジャーズが言う「受け入れられたとき変わり始める」は、
心理的にも脳科学的にも正しい。
承認は“甘やかし”ではなく、
人が前に進むためのエネルギーになる栄養です。
5. 子どもの承認、大人の承認の違い
承認は、大人にも子どもにも必要です。
しかし、その受け取り方には少し違いがあります。
子どもの場合
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“そのままの自分”で愛される経験が、自己肯定感の基盤になる
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否定や比較が多い環境だと、自分を偽りやすくなる
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話を聞いてもらえるだけで、自分を肯定できるようになる
大人の場合
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承認されない環境で育つと、心に「不足感」が残る
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職場・家庭で本音を出すのが怖くなる
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誰かに本音をただ受け止められた瞬間、心が軽くなる
大人でも、
本音を否定されず“ただ受け止めてもらえた“経験が少ない人はとても多い
だからこそ、ロジャーズの言葉は
大人の心にも深く届くのです。
承認の力をもっと分かりやすく伝えるために、ひとつ例を挙げてみます。
たとえば、
家ではいつも「ダメ」「まだまだ」「どうしてできないの」と否定され続け、
“ありのままの自分”を親に認めてもらえなかった子どもがいたとします。
一方で、学校には
「いいじゃん、それで」「大丈夫だよ」「一緒にいようよ」と
その子を受け入れてくれる友達がいたとしたらどうでしょう。
たとえその友達が、
大人から見ると少し問題を抱えた子や、
学校生活の中で“良くない印象”を持たれるタイプだとしても──
子どもは迷わず、その友達のほうへ行きます。
なぜなら、
人間にとって「承認される場所」は
安心を感じられる“心の居場所”になるからです。
大人がどれだけ
「そんな友達と付き合わないほうがいい」とアドバイスしても、
承認を与えてくれるその存在には勝てません。
子どもは
自分を否定する大人より、
自分を受け入れてくれる相手のほうへ
自然と心を預けていく のです。
これは親子に限らず、
大人の人間関係でもまったく同じことが起きます。
承認には、それほど大きな力があります。
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愛され人の教科書の“学び”と“理念” ― 見て、知って、感じて。そして繰り返す―
6. 「そのままを認めること」は“何もしない”とは違う
よく誤解されるのが、
「そのまま受け入れる=放置すること」
ではないという点です。
ロジャーズが言う“受容”には、
温かいまなざしと、相手を信じる姿勢が含まれています。
そのままを認めるからこそ、
相手が自分で「変わろう」とする力が生まれてくる。
押しつける変化は続かないけれど、
自分の中から生まれた変化は、一生ものになる。
承認はそのためのスイッチなのです。
7. 「愛され人の教科書」が大切にしている承認
私がこの活動の中で何より大切にしていることは、
承認は“愛のベース”であり、“幸せの土台”だということです。
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話を遮らずに聞く
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「そう感じたんだね」と気持ちを認める
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ジャッジせず、まず受け止める
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本音が言える場をつくる
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存在そのものを大切に扱う
これらはすべて、承認の表現です。
ありのままを受け入れられた経験は、
人を強くし、優しくし、自分らしく生きる力になります。
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8. 誰もが「承認のチップ」を持っている
承認は特別な才能ではありません。
小さなひと言、短い相づち、
“そこにいてくれて嬉しい”という態度。
私たちは誰でも、
相手の心を満たす小さな「承認のチップ」を持っています。
それを、家族に、子どもに、友人に、職場に、
少しずつ渡していけたら、
人間関係は驚くほど優しく変わっていきます。
承認は、誰かの人生を変える力があります。
そして、自分の人生すらも変えてしまう力があります。
9.おわりに
“そのまま受け入れられたとき、人は変わり始める。”
このロジャーズの言葉が教えてくれるのは、
人が変わるための最初のステップは「努力」ではなく、
安心と承認だということです。
誰かに受け入れられる経験は、人を強くし、前に進ませます。
そして、それを届けることができるのが
「愛され人の教科書」の役割だと信じています。
これからも、承認の本質を大切にしながら、
人が自分を好きになり、誰かとのつながりを感じながら生きられる社会を
丁寧につくっていきたいと思います。
【参考】承認が語られているその他の理論一覧
✔ 選択理論(グラッサー)
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「上質世界」
-
愛・所属の欲求(承認の基本ニーズ)
✔ アドラー心理学
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「勇気づけ」=承認
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“あなたには価値がある”を伝える関わり方
✔ ポジティブ心理学(セリグマン・前野教授)
-
PERMAの「R(関係性)」
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幸福度は承認によって高まる
✔ 愛着理論(ボウルビィ)
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安心感の源泉 → 安心基地 = 無条件の受容
✔ 来談者中心療法(ロジャーズ)
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無条件の肯定的関心
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共感的理解